――フルアルバムとしては、かなり久しぶりですよね。
ホリエ 2年7ヶ月ぶりね。
日向 そんな経っている!?
ホリエ 前作『Future Soundtrack』が2018年、結成20年の年だからね。
ナカヤマ いろいろ出したね。
ホリエ 2018年はツアーも2本回って、年明けに幕張(イベントホール)でワンマンやって。
ナカヤマ 2017年にはトリビュートも出ているしね。
――2枚のベスト盤もありましたし。そこからここまでの道のりって、どうでしたか? 間の2019年にはミニアルバム『Blank Map』もありましたけど。
ホリエ ひとつひとつモードは違うんですけど。今作の流れはおそらく『Blank Map』からはじまっているような気はしますね。「Jam and Milk」と「Parody」や「倍音と体温」はひとつのジャズ的な流れと言えるし。『Blank Map』で弾みを付けることができたから、この路線をもっと極めてみようか、っていう。
――ここ数年のストレイテナーは、バンドストーリーを反映させているような楽曲も目立ちましたよね。
ホリエ そうですね。20周年というきっかけで過去を回想する機会も多かったし、『Future Soundtrack』の「Boy Friend』や『Blank Map』の「吉祥寺」にはそれが反映されていますね。それに区切りをつけたのが、去年1年だった。
――そんな区切りをつけて、新たに進もうという今年、すべてのバンドがそうですが、コロナ禍の影響を受けることになってしまって。
ナカヤマ でも、俺たちは20周年をやり切った後だったので。やりかけのままどうしよう、じゃなかったからね。
ホリエ 去年の「THREE for THREE」や「NANA-IRO ELECTRIC TOUR」の前にこれがきていたら、絶望してただろうね。
ナカヤマ うん。
ホリエ 今年やるべきことが、大きくはこのアルバムを作ることだったから。
ナカヤマ ストレイテナー単体としてはダメージはそんなに大きくはなかった。
日向 もともと、そんなに生き急いでいないバンドだしね。そこらへんはナチュラルだったんじゃないのかな。長めの休み、みたいな感覚だったと思う。
ホリエ うん、今すぐ何かやらなきゃっていう焦りはなかった。
日向 ひとつもやっていないよね、そういうこと。
ナカヤマ 配信ライブもね、だからこその配信ライブっていうわけではなく、この機会だから、ぐらいな感じだったし。
ホリエ 今年はアルバム制作の1年というタイミングだったからね。2020年に作ったんだって、誇りを持って、送り出せるアルバムを作れたと思う。
日向 ゆっくり曲を作ったね。
ホリエ そうだね。ポジティブに解釈すると、新しい曲を作りながら、アレンジしながらも、本来だったらその間もライブがあって、対バンとかイベントとかフェスのスケジュールが週末ごとに入ったりして、ステージでは過去の曲を演奏して、スタジオでは新曲と向き合うっていう、行ったり来たりの反復がある。それが当たり前だったし、ここ何年もやってきたけど、ライブがなくなって、とにかく新曲のことしか考えていなかったから。それが結果的にこのアルバムには表れたと思う。新しいものに専念できたことが。
――それによって、曲の作り方は変わりましたよね。
ホリエ うん。完成に至るまでに、曲が二転三転どころじゃなく変化しているので。それは、時間がないとできなかったことだから。
日向 曲が熟さないっていうか。今回は熟したパターンですよね。眠らせる期間も長かった。いつもの感じだと、もうちょい短いスパンで仕上げていくから。
ホリエ 瞬発力が必要とされるよね。
――正直、制作に特化した時間をとれることは、ストレイテナーにとってどうでしたか?
ホリエ 近年やってこなかったから……。
日向 新鮮だったよね。もう1回考えていいんだ、みたいなことって今までなかったので。だいたい1週間で7曲とかのスケジュールだったし。
ホリエ プリプロやったら、そのまま間隔を空けずにレコーディングに入るとか。で、アルバムだからまとめて7、8曲とか録ったりするのを、今作は間を置きながら2、3曲ずつ録っていったので、シングルを録る時みたいな。体力的に、精神的にも、追われることなく、1曲1曲と大事に向き合っていった。
――ここを変えてみよう、とか見つめ直す時間もあったんですね。
ホリエ そうですね。
――今年のストレイテナーを語る上では重要な、さきほども話題に出てきた『TITLE COMEBACK SHOW』についても伺いたいと思います。アルバムの初回限定盤には映像やライブ盤も付属されますけれども、どんなきっかけで行われることになったのでしょうか。
ホリエ まず、配信ライブをやろうっていうところからはじまって。どういう形でやろうか……たとえばライブハウスで普段通りのライブを配信する方法も考えて。他のバンドの配信も観させてもらいましたけど、それぞれのバンドなりの表現の仕方があるじゃないですか。僕はあの時点では、やっぱり、目の前にお客さんがいなくて、ライブハウスで、普段通りのステージをやることは、あまりイメージできなかった。そこに、スタッフから、今年『TITLE』を出して15周年だから、『TITLE』の全曲ライブとかどう?っていう提案があって。実は、前々からシンペイは、1stアルバム『LOST WORLDS’ S ANTHOLOGY』だけのライブとか、『TITLE』だけのライブとかどうかな?って言っていたんだけど、その時は僕が、作品縛りよりも、ライブで久しくやっていない曲だけの、マニアック選曲ライブをやろうって言って着地したんだよね。でも、今回は『TITLE』の曲だけ演奏するっていいなって。配信ライブのテーマとして、おそらくファンも喜んでくれると思ったし。で、じゃあどこでやろうかっていう段階で、アルバムのレコーディングをやっていたスタジオから、配信対応で映像の機材もがっつり入れたって話を聞いて、じゃあここでもやれるねって。その都度その都度話し合いながら、行き着いたライブだった。
――シンペイくんが、過去のアルバムのライブをやりたいと思っていたのは、なんでなんでしょう。
ナカヤマ ファンが喜んでくれるからですね、単純に。
――『TITLE』には、ライブでやり続けている楽曲も多いですしね。とは言え、久しぶりの楽曲もあったでしょう?
日向 1回もやっていない曲もあったよね。
ホリエ いや、記憶にないだけだと思う。3人時代にはやったんじゃないかなって。
――『TITLE』の制作やツアーの際、まだ大山さんはメンバーじゃなかったわけですもんね。そうなると、今回のライブの捉え方も、また違うものがあったんじゃないかなあって。
大山 やっぱり、その時のバンドの空気感を知らないから、難しいんですよ。何を考えてこの曲を作っていたのか、どういう音像を目指していたのか。
日向 うちらも謎だもんね。
大山 (笑)。難しいんですよ、その中に入っていくのが。
日向 あんなとんがった時代だったのに、ライブでニコニコしながら演奏するような曲もあるじゃん。
ナカヤマ 「AMAZING STORIES」とかね。
日向 想像がつかないんですよね。あの当時の俺たちが「AMAZING STORIES」を弾いている姿が。
ナカヤマ そっから推理して、たぶんやっていないと(笑)。
ホリエ ただ、やっていたらしいよ。『TITLE』のツアーでは。
日向 笑っていたのかなあ。
――私、おそらくその時代も観ていますけど、ニコニコしていた記憶はないです(笑)。
ホリエ ニコニコはしていないし、テンポめっちゃ速かったと思う。ストロークスみたいな感じだったんじゃないかな。
ナカヤマ それもカッコいいね。
日向 たしかに。
――今回の演奏は、だいぶ落ち着いていましたよね。
ホリエ レコーディングスタジオだったしね。アルバムのレコーディングを終えたばかりのタイミングだったし。
日向 環境がね。
ナカヤマ ライブじゃなかったよね。レコーディングだった。
日向 ストイックにならざるを得ない。逃げどころがないので。完全に、自分との戦いみたいな感じだったね。
ホリエ どっちかっていうと、集中力は演奏することに重きを置いていた。でも、観てくれている人がいるっていうことも、届けることも意識しなきゃっていう。
――だから、ライブ盤も、ライブというよりは、一発録りレコーディングの「作品」みたいな印象がありました。
日向 目指したよね、作品にするっていうのは。
――このライブをやってみて、改めて『TITLE』ってどんなアルバムだったと思いますか? まあ、とんがっていた時期、っていう言葉はありましたけれども。
日向 とんがっているよね。
ナカヤマ でも、あの時期にリリースされて、支持されて然るべき、いいアルバムだなって思いましたね。これでとんがっていなかったら、もうちょっと……(笑)。
ホリエ 売れてたかも。とんがりがアダになった(笑)。
ナカヤマ でも、とんがっていなかったら、大山純は加入していないっていうパラドックスがあるので。
ホリエ 『TITLE』は、3人編成になって、1から作ったアルバムなので、そういう記念盤でもあるんですよ。
日向 あの頃、フラストレーションの塊だったよね。
ナカヤマ だし、『TITLE』のツアーが長かった。あと、次の『Dear Deadman』のツアーも。若手バンド特有の尋常じゃないスケジュールに飲み込まれていた時だったから、ギスギスせざるを得なかったんじゃないかな。今思うと。
ホリエ 今だったら、この4人でこれまでに作ってきた作品、曲が礎になって、その上で新しい曲に取り掛かるんだけど、『TITLE』の時は、俺たちどういう曲を作れるんだろう?っていう、まっさらな状態だった。どういう曲が求められているかとか、そういう計略は一切なく、自分たちが作れるもの、作りたいものを、とにかくがむしゃらに作っていった印象がありますね。
日向 攻めまくっていたよね。
ホリエ そう。だから、いわゆるエモーショナルなアッパーチューンもあるけれど、「AGAINST THE WALL」とか「LOVE RECORD」みたいな世界観の強いバラードもあって。ああいう曲は、なんていうか……普通のバンドだったら、まだ若いんだし、アルバムを通して全編アッパーチューンでもよかったと思うんですけど、もう、ほんと、素直に作りたいものを作った結果、すごい濃密なアルバムになっていて。
ナカヤマ 思い出すなあ。たしか新宿ロフトで「AGAINST THE WALL」のMVチェックしたんだよね。今だったらなんとも思わないんだけど、当時あがってきたエディット前のMVが、びっくりするぐらいホリエくんしか映っていなくって。それで、キレ散らかした記憶がある(笑)。今だったら、そういうの大歓迎なんだけどさ。
ホリエ 使えるアングルも少なくて、絞り出して編集し直してた。
ナカヤマ そうかも。でも、その撮影がむちゃくそ長くてさ。
日向 長かった! 暗いところだった気がする。
ナカヤマ そう、で、なんだよ、俺を撮った意味ねえじゃねえかよ!って感じだったなあ。
――しみじみ(笑)。
ホリエ ドラムはだいたいずっと見切れてるから、ずっと叩いてなきゃいけないけれど、実際にあがってきたのを観るとあんまり映ってない……みたいな。それ以来かどうかはわからないけど、編集に立ち会う時に、俺が自分のカットを減らすように指示するようになった。
ナカヤマ いや、今はボーカル稼働だけですって言われたら、やったあ!ってなるよ(笑)。でも、当時は映りたかったんだろうなあ。
――そういうところも含めて、今とはだいぶ。
ナカヤマ 変わりましたね。
日向 こんな変わったバンドいるか!?っていうくらい、変わったんじゃないんですか? 人間性含めて。
――そう……かもしれないですね。あの頃のインタビューを思い出すと(苦笑)。
日向 めっちゃ喋りますもん、今。MCとかもね。昔は「俺たちストレイテナーっていいます」だけですよ。
ホリエ 当時は、自分たちを知ってほしいっていうよりは、音楽を聴いてほしいって壁を作っていたんだよね。取材の時も、ライターさんが引き出そうと思って投げ掛けてくれることも、意図を理解しようともせずに、そんなことを俺は喋りたいんじゃない、みたいな(笑)。それを訊いてどうすんの?っていうとげとげしさがあって、ツッパってましたね。たとえば、ほかのバンドに例えたりするのって、リスナーに興味を持たせるきっかけとして、よかれと思ってだったりするんだろうけど、当時はそんなことわからなかったから(笑)。
ナカヤマ 「ミューズっぽい」って言われて、「聴いたこともないですけど」って言っていたのは覚えている(笑)。
ホリエ (笑)。そうだったっけ? まあ確かにその頃は聴いてなかったな。
――でもね、とげとげしていた頃に、純粋にやりたいことを詰め込んだアルバムが、あれだけ不朽の名曲揃いって考えると、すごいことですよね。
ホリエ 僕、その頃、音楽で伝えたいこととかメッセージとかなかったんです。世界観重視で。でもそうやって書いていたものが、実はすごく芯を食っていたというか。ちゃんと今にリンクしている。その頃とは意味は違うけれど、今の自分が共感できることを書いていて、びっくりしましたね。
――自分でも?
ホリエ うん。
――歌詞もね、当時は、歌詞について訊くと……イヤがられた記憶が未だに抜けないんですけど(笑)。
ホリエ うんうん(笑)。
――それはきっと音楽にすべて詰め込んでいたからだろうし、気持ちもわかるんですけれど、ほんと、今とシンクロしているんですよね。大山さんから見て『TITLE』って、どんなアルバムだと思います?
大山 おそらくですけど、バンドとして一番がんばったんじゃないかなと思います。必死で食らいついて、食らいついて、できないこともやろうとしていた感じも受けるし。背伸びしたような感じもあるけれど、その時にがんばったから結果がついてきたんじゃないかな……いいアルバムですよ。
ホリエ その繰り返しなんだよね。次の『Dear Deadman』は、肩の力を抜いているんだけど、『LINEAR』では、またできないことに手を伸ばしてる。
日向 テナーって、反復なんだよ。
ホリエ 得意じゃないこともやろうとしていたっていうのはありますね。ありそうなのは、「ROCKSTEADY」みたいな曲をもう1曲作れよ、って偉い人から言われるとか、そういうのなかったもんね。インディイズムのままメジャーデビューして、そのままのスタンスを貫いてたから。
日向 むしろ喋りにくくしていたね。
ナカヤマ そうだね。奇跡的に何も言われていない(笑)。
ホリエ ほかのバンドの話だけど、デビュー当時はずっと歌詞を手直しされていたって聞いて、愕然としたもん。そんなことされたら、俺、やめてるな。
日向 発狂だよね(笑)。
ホリエ すごく遡ると、バンドをやることに対して、まったくミーハー感がなかったんですよ。はじめた時から。音楽をやりたいからやっているだけで。おそらく、自分ではない誰かみたいになりたくて、バンドをはじめる人も多いと思うんですけど、僕は最初から自分の音楽への自信とこだわりがあったから、メジャーデビューしたからって、特に何も切り替わらなくて。そこで、大衆向けにヒットを狙ってとか、まったく考えていなかったし、それをやったらダサいと思ってた。ただ、ほかのバンドよりも、自分がカッコいいと思うことをやるっていう、その野心だけ。
――邪念がないですよね。ほかのバンドに見てほしい物語だと思うなあ。
ホリエ いや、そんなことないですよ。
日向 おすすめはしない。
ナカヤマ ツッパらないほうが、正解だもん。
日向 今の若い子って、セルフプロデュースの神じゃないですか。ああ言うことだと思うんですよ、プロって。僕らはプロじゃなかったね(笑)。
ホリエ マインドだけ(笑)。
――『TITLE COMEBACK SHOW』の時、『Applause』のレコーディングは終わっていたんですよね。じゃあ、直接的なシンクロはしていない?
ホリエ 「叫ぶ星」ぐらいですね。アレンジで『TITLE』のフォーマットに敢えて落とし込んだような曲。それで『TITLE COMEBACK SHOW』の時に披露したんですよね。配信リリースを控えていたから、その発表も兼ねて。まったくタイプが違う、たとえば「さよならだけがおしえてくれた」みたいな曲だったら披露しなかったと思う。
――では『Applause』のお話にもいきましょうか。まず、いいタイトルですよね。今作のことも、今の時代も表していると思う。どんなきっかけで名付けたのか、教えていただけますか?
ホリエ 普段通りなら、アルバムの曲の中からいい言葉、象徴している言葉を探すんですけど、何日も考えて考えている中で、10月に久しぶりのライブ、THE SOLAR BUDOKAN 2020で中野サンプラザに立った時に、実感したんですよね、お客さんが歓声をあげられないっていうことに。曲が終わるごとに、お客さんが最大限の賞賛の気持ちを込めた拍手を俺たちに贈ってくれているのを感じて。そこで拍手喝采っていいな、と思ったんです。あのライブがなかったら、このタイトルにはなっていないと思います。
――実際に、まったく歓声がない状態でライブをやるって、どういう感覚なんですか?
ホリエ 歓声が聞こえるとテンションは上がるけど……。
日向 でも、お客さん笑っていたからね。
ホリエ うん。そして、この時間の流れがあるから、受け入れられるのもあるし。
日向 違和感はなかったよ。
ホリエ なによりストレイテナーっていうバンドが、実はそこを頼りにせずに表現してきたんだなって。演奏とパフォーマンスは4人あってのものだっていう原点に戻ったというか。それはお客さんを必要としていないっていう意味ではなくて、ステージングっていう意味では、4人で完結できちゃうんだよね。
日向 たまたま、俺たちはそういうバンドだったんだよね。
ナカヤマ 今は過渡期だからね。
――たしかに。なにより、ライブを経験してアルバムタイトルが決まったっていうのは、いい話ですね。
ホリエ そうですね。その時に思い出したのが、武道館でのワンマンライブで、アンコールの曲が終わって、歓声止んだ後も拍手だけが鳴りやまなかったんですよ。ロックバンドをやっていたら、やっぱり歓声はうれしいし聞きたいけれど、一番の賞賛として武道館のあの拍手があったことを思い返したっていうのもあります。
――今まで、お客さんと作ってきた場面ありきのタイトルということですね。で、『Applause』の意味は明るく開けていますけれども、曲名は「Death」「さよなら」「Dry」「黒」とか、ダークなワードが多いから、字面の情報だけの段階では、どんなアルバムなんだろう?って謎を呼ぶ一枚だと思います(笑)。
日向 たしかに、曲名はエグいもんね、今回。
――これは偶然ですか?
ホリエ 偶然、っていうかブラックユーモア的な、捻った曲名にしようとは思っていました。
――ああ、キャッチーではあるんです、覚えやすいし。それは歌詞に関しても言えることで、韻を踏んだり、ラップ的な歌があったり、言葉が際立つ表現が目立ちますね。
ホリエ そうですね。メロディよりも言葉が入るように。今まで得意としてこなかったので、そういうことができていたらいいなって。変なところにこだわっていたりするんですよ。歌録りを終えてしばらく経って、別の曲のレコーディングの日に歌い直した歌詞とかあるんです。「倍音と体温」の《お蔵入りの記憶》とか、《お蔵入り》っていう言葉が浮かんじゃったから、どうしても変えたくて。
日向 変態だよ!(笑)。
ホリエ 思いついたら、そうしたくなってしょうがない。歌詞で出てこなそうな言葉っていうかね。《数秒間の視覚》とか、運転免許の更新に行った時ぐらいしか聞かない(笑)。交通事故のビデオね。
日向 携帯を見て運転しちゃいかんぞっていうドラマね。
――気になるところが出てくるっていうことは、ホリエくん自身が何回も聴き直したっていうことですよね。
ホリエ そうですね。聴き直して、読み直して。
――そういう作業にも、いつもよりも時間をかけられたと。
ホリエ うん。
――ホリエくん以外のみなさんも、そういうことはありましたか?
日向 しれっと思い浮かんだことをやれた、っていうのはあるかもしれません。そんな余裕がある制作は、いいもんでしたね。こんぐらい時間があると、心が豊かになる(笑)。
ホリエ フレッシュだね。
――たとえば、いろんな音楽を聴く時間も、いつもよりもあったと思うんですよ。
日向 それは反映されていますね。めっちゃ偏っていたもん、聴いている音楽。UKジャズばかりで、ロックは聴かなかったですね。みんな、聴かないでしょ?
ナカヤマ 全然聴かない。
――私はそんなに深く掘っていないですけれど、今のジャズ、面白いですもんね。
日向 面白いですね。UKジャズとLAのジャズが、今は最高にカッコいいですね。全部を兼ね備えているので。
――ポップなことやっていますしね。
日向 そうそうそう。めちゃめちゃ気持ちよくて。それが、とてもストレイテナーに反映できる感じなんですよ。
――たしかに、今作を語る上では、横ノリのグルーヴっていうものが重要で。それはロック由来のものではないですよね。
日向 ほかのバンドにはできないと思いますよ。ホリエくんの書く楽曲の幅広さがあるから、反映できるんだと思う。OJもそうでしょ?
――大山さんは、どんな音楽を聴いていました?
大山 韓国のバンドが最近出している音が面白くて。
ホリエ ポストロックみたいな感じ?
大山 なんだけど、今の手法でやっていて。ラジオで聴いちゃ調べています。
――面白そう。ストレイテナーは、どんどんハイブリッドなバンドになってきていますね。
ホリエ 4人それぞれが、どっからインプットしているかっていう話も、特にしないでアレンジをしているんです。それぞれが思うところがあってやっているアプローチが、ひとつの曲になった時に、絶妙に調和するっていう。それは別に今にはじまったことではないけれど。だから、変化していくし、常に新鮮に面白がってレコーディングできるんだと思います。
――そこが、音楽を作ることを純粋に楽しむうえで重要な気はしますね。
ホリエ そうですね。若い頃から、ファンやスタッフに求められることをやろうとはしないというか。理解はするんですけれど、予想を覆したいっていう。だから、今はみんながそれをわかってくれていて、次は何を出してくるんだろうって、ワクワクして待っていてくれるっていうのが大きいんだと思います。
――ジャズ的な要素もあるから、ライブで変化していくんだろうなと思いますけど、年明けには去年末ぶりのツアーが決まっていますね。
ホリエ ライブをやることは、絶対に楽しいと思います。どんな状況であろうと。先立つ不安や心配は、今の段階ではもちろんあるけれど、実際にステージに立ったり、4人で音を鳴らした時は楽しいだろうし、それが画面を通してではなく、生身で向き合って伝えられれば幸せだろうと思います。
――着席なのかスタンディングなのか、どんなライブのスタイルになるかは……。
ホリエ 現状ではわからないです。ただ、こうじゃなきゃできないっていうのはストレイテナーにはないので。
――それは頼もしい言葉です。だいぶ、いろいろと伺いましたが、最後に、今作で一人ひとりお気に入りの曲を教えていただいて締めましょうか。
大山 俺は「Dry Flower」。ギターが枯れ切っているよね。
日向 OJの世界観だよね。俺は「さよならだけがおしえてくれた」。♪さよなら~。
ホリエ 歌い出しは《もう 終わりだね》だからね。
日向 エモ過ぎる。
――それはオフコースの「さよなら」ですね(笑)。シンペイくんは?
ナカヤマ 俺は「混ぜれば黒になる絵具」。
ホリエ 「混ぜ黒」ね。
ナカヤマ あと、「Maestro」とか、後々ライブでやらなくなった時に、あれやろうよって掘り起こしそうな気がする。
――ホリエくんは、どれですか?
ホリエ リスナーの感覚では「倍音と体温」が好きなんですけど、アッパーな曲を推したい気持ちはありますね。「Death Game」とかね。「Death Game」は、ファンが聴いたら、まだこんな曲が出てくるの?ってびっくりするんじゃないかな。マスタリングエンジニアのタッキーさんは、このアッパーな2曲、「Death Game」と「ガラクタの楽団」を最高だね!って言っていました。
ナカヤマ ゴリゴリのテナーファンは笑っちゃうんじゃないかな。
日向 テナーのおふざけのところだからね。
ナカヤマ で、後々でファンになってくれた人は、純粋に好いてくれる気がする。
――1曲選ぶって難しいですね。ほんと、全部違うから。
ホリエ そうですね。日によって変わるかもしれない。
日向 じゃあ、今日の1曲はさっきの1曲で、明日またやってみようか(笑)。
――アルバムのタイトルもそうですけど、ひとつのカラーを象徴しているわけではなく、今のバンドや時代のムードを包括している一枚ですよね。
ホリエ そうですね。ゆえに、スタイリッシュなアルバムになるかなあと去年末ぐらいには思っていたんですけど、全然そうじゃなかった。
ナカヤマ ゴリゴリのテナーファンはこれこれ!って言うし、でも新規の人が一番入りやすいアルバムだと思う。ポップだし。
ホリエ 『Future Soundtrack』がウェットだったから、その前の『COLD DISC』ってポップだったよなあと思って聴き直したら、結構暗かったんですよ(笑)。その中で『Applause』はポップだと思うんです。
日向 このポップ感、なかなか出せないぜ。
ホリエ いろんな曲が詰まっているけれど、コース料理じゃないっていうかね。アラカルト。好きなところどり。から揚げの後にガトーショコラいってからの焼きそばとか(笑)。
日向 口が欲するもの、全部食ってる(笑)。
ホリエ 全部茶色(笑)。
――おいしいものが全部詰まっているぞと(笑)。
日向 間違いない!(笑)。
ホリエ ちなみに、ジャケットのアートワークは、シンペイと話して、曲名からとって、ドライフラワーリースの写真にしました。12月っていうタイミングでもあるけど、逆にクリスマスっぽさは出さないような質感を意識して、写真を撮ってもらって。でも、このアルバムを手に取ってくれた人に、永遠の幸せが訪れるように願っています。
オフィシャルライター:高橋美穂